●斜面には道路や宅地造成などで見られる人工斜面(法面)と,山岳や丘陵地に見られる自然斜面とがあります.
1 人工斜面
1-1人工斜面(法面)の崩壊
1-2安定計算の考え方
2 自然斜面
2-1自然斜面の崩壊
2-2地すべり
鉄道や道路,宅地造成,堤防などの建設に伴い,斜面の切取りや盛土工事が行われ,多くの人工的な斜面が作られています. これらはその斜面の傾斜角や管理の方法によっては,斜面に崩壊が生じることがあり,建設中や建設後にも崩壊することのないよう十分注意する必要があります.
図1-人工斜面,盛土
斜面の崩壊は,土の力学的な力釣合いが失われた場合に生じますが,その原因としては,
  • 新たな盛土や切土などによって生じる場合,
  • 地下水や降雨などによる斜面内の浸透水が原因で生じる場合,
  • 地震力を受けて生じる場合
  • などが挙げられます.

    このようにしておこる斜面の崩壊は,普通,ある面(すべり面)に沿ってすべります.

    斜面の安定を検討する場合,斜面内部のどの位置にどのような形のすべり面が発生するかを知ることが重要です.

    斜面の高い部分は,重力によって低い部分に移動しようとし,斜面内部にせん断応力が生じます.このせん断応力が,その土のせん断強さよりも大きくなると,崩壊が起きます(図3). このすべり面の形は,地盤や斜面の形状などによって異なりますが,切土による斜面や自然斜面では円弧と直線を組み合わせたような形状となることが多く,盛土などのように土質が均一で単純な斜面では,円弧すべり面を仮定して安定計算が行われています.

    円弧すべり面が生じる位置は,斜面の傾斜の程度や地盤の条件によって異なり,斜面の崩壊の形式は一般に図2に示す3種があると考えられています.

  • 底部崩壊(図2(a)):硬い地盤の上に軟弱な粘土層があるとき,斜面の傾斜がゆるいと底部の硬盤に接してすべり面を生じ,しかも法先から遠い部分は隆起して(A点),頂部は沈下します.
  • 斜面先崩壊(図2(b)):斜面が90°に近い急傾斜をしているとき図(b)のように法先(B点)からすべり面を生ずる.
  • 斜面内崩壊(図2(c)):斜面中に硬い層があると,図(c)のようにその層の末端(C点)からすべり面を生じて崩壊する.
  • 図2-斜面破壊の種類

    いくつかのすべり円弧を仮定し,それぞれの円弧のすべりに対する安全度を調べ, すべり崩壊を起こすかどうかを判定します.図3に示すような円弧すべり面を仮定する.仮定したすべり面には,その面に沿ってすべりを起こそうとするせん断応力とそれに抵抗するせん断強さとが働いています.すべり面沿ったそれらの和が
    (すべり面に沿ったせん断応力の和)<(すべり面に沿ったせん断強さの和)
    の関係にあれば,その円弧に沿ってすべりは生じないことになります.
    仮定したすべり面がすべりに対してもつ安全性(安全率)は次のように表されます.
    ・①すべりに抵抗するせん断強さの和とすべりを起こそうとするせん断応力との比
    ・②すべり円弧の中心に対してすべりを起こそうとする力のモーメントとそれに抵抗するモーメントとの比

    図3-斜面の安定計算の考え方

      すべり起こそうとする力 すべりに抵抗する力
    応力
    モーメント
  • R:すべり円弧の半径
  • W:すべり土塊の重量
  • d:すべり円弧の中心からすべり土塊の重心までの距離
  • 安全率を求める方法は, すべり土塊をいくつかの帯状の細片に分割して求める分割方法,均質な土層からできている斜面に対して図解法および図表で求める方法等があります.

    いずれの方法も斜面の安定は,中心と半径をかえていくつかのすべり円弧を仮定し,それぞれの円弧について安全率を求め,安全率が最小のすべり円弧を探す方法をとります.

    この最小の安全率の値をその傾斜面の持つ安全率とします.

    注)切取り・盛土における斜面の安定計算の安全率
    安全率 1.0 不安定
    1.0~1.2 安定であるが少々不安
    1.3~1.4 安定

    自然斜面においては,継続した降雨によって地山が飽和し,有効圧力や,すべり面における摩擦力,粘着力が減少して,地滑りや崖崩れを生じます. 地震時では地震力の影響によって山崩れを生ずることがあります.このような自然斜面の崩壊は地質的要因が多く,予測が難しく,計算による安定の検討は困難です.

    わが国では地形的には壮年期が多く,地質学的には若い第3紀の凝灰岩,砂岩,頁岩でできている所が多く見られ,気象的には長雨,豪雨に見舞われる地域では大規模な自然発生の地すべりが起こっています.

    急峻な斜面では,風化した岩屑,土砂が滑落し,いわゆる土崩れあるいは石崩れあるいは崖崩れといわれる現象があります.

    風化層が厚く,降雨によって土層が十分飽和し,地下の深い部分から大量の土砂が一気に崩落するものを層すべりといいます.

    地山の傾斜が比較的緩やかな風化層,崖錘などの岩屑土砂堆積層が緩慢に押し出すのを山クリープといい,大量に土砂が急激に崩落する場合を地すべりと呼んでいます. すなわち,地すべりは,山地や丘陵の自然斜面の一部が,重力の作用によって低い方向に向かって移動する現象で,これはさらに1) 地すべり,2) 山崩れの二つに分けられます. このうち1)の地すべりは自然の土の斜面が重力の作用によって比較的緩慢にしかも継続的に低所に向かって移動する現象をいい,2)の山崩れは先の地すべりに比べてすべりの速度がきわめて早いものをいって区別しています. 典型的な地すべりでは図4のように一つの主すべり面に沿って,上部は沈下し,下部は隆起します.

    長大な斜面では傾斜面に沿い、ある深さで一様に崩壊し、層すべりはこれに属します。
    図4-自然斜面と地すべりの状況 図5-長大斜面のすべり

    次に地すべりに関する事柄とその対策方法を簡単に述べます.
    (1) 地すべりの生じる地形の特徴

    1.地すべりの上端付近には滑落崖があり,先端付近は隆起し,その前面は急斜面を形成します.

    2.地すべりの上部は沈下し,池や湿地帯が見られます.

    3.傾斜は比較的緩やかで5~20°程度の傾斜をなします.

    (2) 地すべりの誘因

    1.長雨,豪雨,融雪などによる地下水の増加.

    2.斜面の麓の河川による侵食.

    3.地震などによる振動.

    4.切取り,盛土などの人為的行為.

    (3)地すべりへの対策

    大規模な地すべりを完全に静止することはきわめて困難ですが,その進行速度をある程度抑制することは可能です.その対策としては

    1.地表水の地下への浸透を防ぐ・・・・・地表に排水工や被覆工などの浸透防止工を行う.

    2.地下水を排除する・・・・・地下に横ボーリング工,排水トンネル工,集水井戸,排水暗渠などを設け,地すべり土塊の抵抗力を増し,かつ地すべりする力を弱める工法を行う.

    3.固化剤や薬液を土塊中に注入し地盤を強化する工法.

    4.地すべり土塊を除去する工法.

    5.地すべり土塊の末端部に押さえ盛土を行う工法.

    6.地すべり土塊に杭を列状に打ち込みすべりに対して抵抗を増大する工法.

    7.アンカーを定着地盤まで打ち込み地すべり土塊を抑える工法.

    などが考えられています.

    1~5までは抑制工6,7を抑止工といわれるものです.すなわち,抑制工は地形や地下水の状態などの自然状態を変化させて,地すべり活動を緩和または停止させる工法であり,抑止工は構造物を設けて,その抵抗で地すべり活動を抑止しようとする工法です.
    図6-地すべり対策
    自然斜面の崩壊は多くの人的,社会的被害を生じます.十分注意してその対策を行うことが大切です. 地すべり地区には次のような看板が立っています.
    また次の写真は,地すべり監視装置です.地盤の滑りぐあいと地下水の地面からの深さを測ります.

    (2005年5月21日)

    地すべり被害写真

    隠岐郡知夫村・仁夫里地区(建設省所管)

    昭和52年8月被災高津久地区崩壊土量5000m3人家前回4戸

    (島根の地すべり,島根県,1990)